ロシアがウクライナ攻撃 なぜ起きた? これからどうなる?
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ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2月21日、ウクライナ東部で親ロ派勢力が支配する地域の独立を承認。24日には、軍事作戦に踏み切った。その領域は、親ロ派支配地域にとどまらない。「首都キエフで爆発音が聞こえた」「ロシア軍が、ベラルーシと接するウクライナ北部を攻撃した」との報道がある。ウクライナをめぐる緊張は高まる一方だ。
プーチン大統領の意図はどこにあるのか。制裁は効果があるのか。中国はどう反応するか。そして、今後、さらに大規模な軍事侵攻は考えられるのか。これらを考える上でヒントとなる情報を過去記事からピックアップし紹介する。
プーチン大統領は「祖国戦争」を戦っている?
ロシアのプーチン大統領が危機を高める意図はどこにあるのか。これに対する見方はさまざまだ。プーチン大統領の発言も時間とともに変化している。ウクライナにミンスク合意*を履行させること。NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大をこれ以上進ませないこと――。
*:2014年に起きた「ウクライナ紛争」を停戦するための合意
さまざまな見方の中に、NATOの東方拡大はプーチン大統領に「祖国戦争」を彷彿(ほうふつ)させる、との見方がある。祖国戦争は、1812年のナポレオン戦争と、1941~45年の独ソ戦のこと。いずれもフランスやドイツが他の欧州諸国とともにロシア、ソ連領内に攻め込んだ。
ドイツ史に詳しい大木毅氏は著書『独ソ戦』の中で、独ソ戦を「人類史上最大の惨戦」と形容する。死者の数は2700万人(人口比14%)*に及んだ。「ジェノサイドや捕虜虐殺など(中略)蛮行がいくども繰り返された」(同著)
*=第2次世界大戦における日本の死者数は5%未満
西側から見れば「侵略」であるロシアの行為が、プーチン大統領の目には第3の祖国戦争を起こさないための「抑止」「防衛」と映っているかもしれない。問題を解決するのに、プーチン大統領の認識を理解する努力は欠かせない。
構図は1つではない
侵略するロシア。それに耐えるウクライナ。現在のウクライナ危機はこうした構図で描かれる。しかし、物事は常に二面性を持つ。
ロシアとウクライナの対立の発端は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権が2021年に入って「ミンスク2合意を履行しない」との方針を明らかにしたことにあった。
さらに「ゼレンスキー大統領はドンバス地方奪還に向けて、軍事力による解決を試みている。21年4月にトルコから購入した軍事用ドローンをドンバス地方での偵察飛行に利用した。さらに、10月末にこのドローンによって、ドネツク州の都市近郊で分離独立派武装組織の榴(りゅう)弾砲を爆破した。(中略)プーチン大統領はそもそもウクライナからのドローン攻撃に対抗すべく、けん制の意味を込めて軍隊を(編集部注:ウクライナとの国境周辺に)集結させただけである」。
2月半ばの時点で、こうした見方も存在した。国際関係は単純な勧善懲悪の筋書きには収まらない。プーチン大統領にはプーチン大統領の見方があるだろう。とはいえ、国際法に違反する武力行使をしてよいことにはならない。
ウクライナ危機を歴史と地理から見る
ここまで、「ミンスク合意」「NATOの東方拡大」など、ふだん接することのない用語が登場した。ちなみにミンスク合意は、2014年に起きた「ウクライナ紛争」を停戦するための合意だ。では、ウクライナ紛争とは何か。
さまざまな用語とこれまで経緯を理解するには「ロシア軍は動くのか ウクライナ危機について知っておきたい10のこと」が役に立つ。ロシアとウクライナの関係を歴史と地理を軸にひもとく。
ロシアとウクライナは兄弟国といえる。どちらも「10~12世紀に欧州の大国であったキエフ・ルーシ公国を起源とする。同公国はビザンチン帝国と肩を並べる時期もあった。その後のロシア、ウクライナ、ベラルーシの基礎を形作った。ロシアは自国を1000年の歴史と栄光を持つ同公国の正統な継承者と主張するが、同公国の中心都市キエフがあるウクライナを本家とする見方もある」
冷戦終結後「ソ連(当時)から独立したウクライナの政権は親欧米と親ロシアの間で揺れてきた。2005年に就任したビクトル・ユシチェンコ大統領はNATOへの加盟に積極的だったが、2010年にこの後を襲ったヤヌコビッチ大統領はEU(欧州連合)との連合協定の交渉プロセスを停止した。同大統領がマイダン革命で倒れると、2014年5月にペトロ・ポロシェンコ氏が大統領に就任し、NATOへの加盟に方針を再転換した」。
対ロシア制裁は効果があるのか
ウクライナ東部で親ロ派勢力が支配する地域の独立をロシアが承認し、さらに同地域へ軍派遣を指示したのを踏まえて、西側諸国は「第1弾」の制裁を開始した。2月24日にプーチン大統領が軍事作戦に踏み切ったのを受けて、さらなる制裁強化が見込まれる。
だが、制裁の効果を疑問視する声が以前からある。「もともとロシアはソ連時代のルーブル経済圏で国家を運営した経験の蓄積もあり、西側諸国からの制裁下でもそれほど大きな支障なく経済的自立ができる状況にある。2014年以降続くEUからの食料品の輸入禁止により、首都モスクワでも西側諸国の製品が手に入らなくなった。ただ、ロシア人はソ連時代のモノがなかったころから、国内にあるもので代替品を作る能力にたけている。イタリアの某ブランド品にそっくりなロシア産パスタや、スイス産と見まがうチーズなど、パッケージはほぼ同じで中身がロシア産の製品が至る所にあり、経済制裁の影響をものともしないロシア国民のたくましさが見受けられる」
制裁は、その効果がおぼつかない一方で、科す方の西側も無傷ではいられない。「もし米国がウクライナ情勢においてロシアへの制裁に踏み切れば、ロシアは再び米国の主要インフラへのサイバー攻撃を開始すると考えられる」(国際政治学者で米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏)。
ドイツとロシアの動向は、日中関係の合わせ鏡
制裁をめぐり、中でも苦しい選択を強いられているのはドイツだ。
西側諸国がロシアへの制裁を強めれば、ロシアが天然ガスの欧州向け供給を絞り報復するのは避けられない。EUのガスの輸入元を見ると2021年上半期はロシアが46.8%を占めた。なかでもドイツはロシア産天然ガスへの依存度が高く、報復の影響は大きい。それでもドイツは、同国とロシアをつなぐガスパイプライン「ノルドストリーム2」の承認停止を決めた。
仮に台湾有事の場合、西側諸国は中国への制裁を検討するだろう。そのとき、中国と経済面で密接な関係にある日本はどこまで歩調を合わせられるだろうか。
中国はいかなる行動を取るか?
さて、その中国についてだ。国際社会の目はウクライナに集中するが、事は欧州だけにとどまらない。ロシアがウクライナに侵攻するのと並行して、関係を深める中国が台湾の武力統一を進め、米国に二正面作戦を迫る、との見方が根強くある。
その一方で、中国はロシアと距離を保っているとの見方もある。英エコノミスト誌は「台湾統一は内政問題。外国による侵略と同列の話ではない」という中国の見方を紹介する。
中国大使を務めた経験を持つ宮本雄二氏も、2月4日の中ロ首脳会談後に出された共同声明に「ウクライナ」の文字がないことに注目する。「中国側は共同声明において『長期的な法的拘束力を持つ欧州の安全保障をつくり出すためのロシアの提案』に対し『同情的である』と言っている。しかし、共同声明のどこにも『ウクライナ』という国名は出てこない。中国は、ロシアによるクリミア半島併合を認めておらず、ウクライナから武器を輸入し続けている。少なくとも中国にとり、ロシアのウクライナ侵攻はとても賛成できる状況にはない。中国は『NATOのさらなる拡大』に反対しただけで、ウクライナに対するロシアの行動に何のコミットもしていないのだ」
習近平(シー・ジンピン)指導部は今のところ、ロシアが発した派兵命令への支持を見送る方針と伝えられている。
ロシアと中国の関係が今後、いかなるものになるのか。これは日本の安全保障にも重要な意味を持つ。笹川平和財団の畔蒜泰助主任研究員は、プーチン大統領が西側に要求する中距離ミサイルの取り扱いが試金石になるとみる。
「今後、米ロ間で中距離ミサイル問題を巡る具体的な協議が始まったとして、仮にロシアの従来の主張である『欧州には配備しない』との提案を米国が行ったら、ロシアはどうするのか。ロシアは中国の安全をおもんぱかって、アジアも対象にするよう米国とさらに交渉するのか。それとも、モスクワに届くミサイルが配備されないという自国の安全が保障されたことをもってよしとするのか」(同氏)
プーチン大統領の次の一手を考える
プーチン大統領はこの先どこまで進む気だろうか。答えはプーチン大統領のみが知るところだ。ただし、専門家はいくつかのシナリオを想定している。自衛隊でベルギー防衛駐在官およびNATO連絡官としての勤務した経験を持つ長島純氏は「黒海の聖域(軍事要塞)化や、バルト3国と他のNATO諸国との分断が考えられる」という。
黒海から西側勢力を追い出し、オホーツク海のような聖域(軍事要塞)にできれば戦略的に大きな意義を持つ。ロシアはオホーツク海に戦略核兵器を搭載する原子力潜水艦を配備して、核抑止の要にしている。核による先制攻撃を受けても、隠密性に優れる潜水艦によって反撃に転じる。新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「ブラバ」を搭載するボレイ級原子力潜水艦を、ウラジオストクを拠点とする太平洋艦隊に配備する予定もある。黒海が同様の存在になればNATOに対して強いにらみを利かせられるようになる。
もう1つはロシアが、欧州の戦略的要衝であるスバルキ・ギャップ(Suwalki Gap)をコントロール下に置くシナリオだ。スバルキ・ギャップは、北に位置するリトアニアと南に位置するポーランドを隔てる国境線で、その距離は東西方向に100kmほど。その西端はロシアの飛び地であるカリーニングラード。東端は、ロシアの友好国ベラルーシの西端に当たる。ここを押さえれば、リトアニア以北のバルト3国は他のNATO諸国から分断されることになる。
そのとき、NATOはどのように行動するのか。その結束が問われる。
最後に
ウクライナ危機は欧州の問題にとどまらない。
中国は、米国をはじめとする西側諸国がいかなる対応を取るのか、まばたきさえ惜しんで凝視しているだろう。いかなる制裁を科すのか。軍事行動を起こすことはあるのか。それゆえ、ウクライナ危機にいかに対応するかは中国の次なる行動に影響を及ぼす。東アジアの安全保障に直結するのだ。
中国はもちろん、日本の行動もしっかり見ている。
そして、日本の行動を見ているのは中国だけではない。欧州諸国も同様だ。仮に台湾有事の場合、欧州諸国がいかなる行動を取るか。それは、日本がいま取る行動が左右する。日本政府は腰を据えて取り組む必要がある。そして日本国民も日本政府の行動から目を離してはならない。
プーチン大統領の意図はどこにあるのか。制裁は効果があるのか。中国はどう反応するか。そして、今後、さらに大規模な軍事侵攻は考えられるのか。これらを考える上でヒントとなる情報を過去記事からピックアップし紹介する。
プーチン大統領は「祖国戦争」を戦っている?
ロシアのプーチン大統領が危機を高める意図はどこにあるのか。これに対する見方はさまざまだ。プーチン大統領の発言も時間とともに変化している。ウクライナにミンスク合意*を履行させること。NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大をこれ以上進ませないこと――。
*:2014年に起きた「ウクライナ紛争」を停戦するための合意
さまざまな見方の中に、NATOの東方拡大はプーチン大統領に「祖国戦争」を彷彿(ほうふつ)させる、との見方がある。祖国戦争は、1812年のナポレオン戦争と、1941~45年の独ソ戦のこと。いずれもフランスやドイツが他の欧州諸国とともにロシア、ソ連領内に攻め込んだ。
ドイツ史に詳しい大木毅氏は著書『独ソ戦』の中で、独ソ戦を「人類史上最大の惨戦」と形容する。死者の数は2700万人(人口比14%)*に及んだ。「ジェノサイドや捕虜虐殺など(中略)蛮行がいくども繰り返された」(同著)
*=第2次世界大戦における日本の死者数は5%未満
西側から見れば「侵略」であるロシアの行為が、プーチン大統領の目には第3の祖国戦争を起こさないための「抑止」「防衛」と映っているかもしれない。問題を解決するのに、プーチン大統領の認識を理解する努力は欠かせない。
構図は1つではない
侵略するロシア。それに耐えるウクライナ。現在のウクライナ危機はこうした構図で描かれる。しかし、物事は常に二面性を持つ。
ロシアとウクライナの対立の発端は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権が2021年に入って「ミンスク2合意を履行しない」との方針を明らかにしたことにあった。
さらに「ゼレンスキー大統領はドンバス地方奪還に向けて、軍事力による解決を試みている。21年4月にトルコから購入した軍事用ドローンをドンバス地方での偵察飛行に利用した。さらに、10月末にこのドローンによって、ドネツク州の都市近郊で分離独立派武装組織の榴(りゅう)弾砲を爆破した。(中略)プーチン大統領はそもそもウクライナからのドローン攻撃に対抗すべく、けん制の意味を込めて軍隊を(編集部注:ウクライナとの国境周辺に)集結させただけである」。
2月半ばの時点で、こうした見方も存在した。国際関係は単純な勧善懲悪の筋書きには収まらない。プーチン大統領にはプーチン大統領の見方があるだろう。とはいえ、国際法に違反する武力行使をしてよいことにはならない。
ウクライナ危機を歴史と地理から見る
ここまで、「ミンスク合意」「NATOの東方拡大」など、ふだん接することのない用語が登場した。ちなみにミンスク合意は、2014年に起きた「ウクライナ紛争」を停戦するための合意だ。では、ウクライナ紛争とは何か。
さまざまな用語とこれまで経緯を理解するには「ロシア軍は動くのか ウクライナ危機について知っておきたい10のこと」が役に立つ。ロシアとウクライナの関係を歴史と地理を軸にひもとく。
ロシアとウクライナは兄弟国といえる。どちらも「10~12世紀に欧州の大国であったキエフ・ルーシ公国を起源とする。同公国はビザンチン帝国と肩を並べる時期もあった。その後のロシア、ウクライナ、ベラルーシの基礎を形作った。ロシアは自国を1000年の歴史と栄光を持つ同公国の正統な継承者と主張するが、同公国の中心都市キエフがあるウクライナを本家とする見方もある」
冷戦終結後「ソ連(当時)から独立したウクライナの政権は親欧米と親ロシアの間で揺れてきた。2005年に就任したビクトル・ユシチェンコ大統領はNATOへの加盟に積極的だったが、2010年にこの後を襲ったヤヌコビッチ大統領はEU(欧州連合)との連合協定の交渉プロセスを停止した。同大統領がマイダン革命で倒れると、2014年5月にペトロ・ポロシェンコ氏が大統領に就任し、NATOへの加盟に方針を再転換した」。
対ロシア制裁は効果があるのか
ウクライナ東部で親ロ派勢力が支配する地域の独立をロシアが承認し、さらに同地域へ軍派遣を指示したのを踏まえて、西側諸国は「第1弾」の制裁を開始した。2月24日にプーチン大統領が軍事作戦に踏み切ったのを受けて、さらなる制裁強化が見込まれる。
だが、制裁の効果を疑問視する声が以前からある。「もともとロシアはソ連時代のルーブル経済圏で国家を運営した経験の蓄積もあり、西側諸国からの制裁下でもそれほど大きな支障なく経済的自立ができる状況にある。2014年以降続くEUからの食料品の輸入禁止により、首都モスクワでも西側諸国の製品が手に入らなくなった。ただ、ロシア人はソ連時代のモノがなかったころから、国内にあるもので代替品を作る能力にたけている。イタリアの某ブランド品にそっくりなロシア産パスタや、スイス産と見まがうチーズなど、パッケージはほぼ同じで中身がロシア産の製品が至る所にあり、経済制裁の影響をものともしないロシア国民のたくましさが見受けられる」
制裁は、その効果がおぼつかない一方で、科す方の西側も無傷ではいられない。「もし米国がウクライナ情勢においてロシアへの制裁に踏み切れば、ロシアは再び米国の主要インフラへのサイバー攻撃を開始すると考えられる」(国際政治学者で米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏)。
ドイツとロシアの動向は、日中関係の合わせ鏡
制裁をめぐり、中でも苦しい選択を強いられているのはドイツだ。
西側諸国がロシアへの制裁を強めれば、ロシアが天然ガスの欧州向け供給を絞り報復するのは避けられない。EUのガスの輸入元を見ると2021年上半期はロシアが46.8%を占めた。なかでもドイツはロシア産天然ガスへの依存度が高く、報復の影響は大きい。それでもドイツは、同国とロシアをつなぐガスパイプライン「ノルドストリーム2」の承認停止を決めた。
仮に台湾有事の場合、西側諸国は中国への制裁を検討するだろう。そのとき、中国と経済面で密接な関係にある日本はどこまで歩調を合わせられるだろうか。
中国はいかなる行動を取るか?
さて、その中国についてだ。国際社会の目はウクライナに集中するが、事は欧州だけにとどまらない。ロシアがウクライナに侵攻するのと並行して、関係を深める中国が台湾の武力統一を進め、米国に二正面作戦を迫る、との見方が根強くある。
その一方で、中国はロシアと距離を保っているとの見方もある。英エコノミスト誌は「台湾統一は内政問題。外国による侵略と同列の話ではない」という中国の見方を紹介する。
中国大使を務めた経験を持つ宮本雄二氏も、2月4日の中ロ首脳会談後に出された共同声明に「ウクライナ」の文字がないことに注目する。「中国側は共同声明において『長期的な法的拘束力を持つ欧州の安全保障をつくり出すためのロシアの提案』に対し『同情的である』と言っている。しかし、共同声明のどこにも『ウクライナ』という国名は出てこない。中国は、ロシアによるクリミア半島併合を認めておらず、ウクライナから武器を輸入し続けている。少なくとも中国にとり、ロシアのウクライナ侵攻はとても賛成できる状況にはない。中国は『NATOのさらなる拡大』に反対しただけで、ウクライナに対するロシアの行動に何のコミットもしていないのだ」
習近平(シー・ジンピン)指導部は今のところ、ロシアが発した派兵命令への支持を見送る方針と伝えられている。
ロシアと中国の関係が今後、いかなるものになるのか。これは日本の安全保障にも重要な意味を持つ。笹川平和財団の畔蒜泰助主任研究員は、プーチン大統領が西側に要求する中距離ミサイルの取り扱いが試金石になるとみる。
「今後、米ロ間で中距離ミサイル問題を巡る具体的な協議が始まったとして、仮にロシアの従来の主張である『欧州には配備しない』との提案を米国が行ったら、ロシアはどうするのか。ロシアは中国の安全をおもんぱかって、アジアも対象にするよう米国とさらに交渉するのか。それとも、モスクワに届くミサイルが配備されないという自国の安全が保障されたことをもってよしとするのか」(同氏)
プーチン大統領の次の一手を考える
プーチン大統領はこの先どこまで進む気だろうか。答えはプーチン大統領のみが知るところだ。ただし、専門家はいくつかのシナリオを想定している。自衛隊でベルギー防衛駐在官およびNATO連絡官としての勤務した経験を持つ長島純氏は「黒海の聖域(軍事要塞)化や、バルト3国と他のNATO諸国との分断が考えられる」という。
黒海から西側勢力を追い出し、オホーツク海のような聖域(軍事要塞)にできれば戦略的に大きな意義を持つ。ロシアはオホーツク海に戦略核兵器を搭載する原子力潜水艦を配備して、核抑止の要にしている。核による先制攻撃を受けても、隠密性に優れる潜水艦によって反撃に転じる。新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「ブラバ」を搭載するボレイ級原子力潜水艦を、ウラジオストクを拠点とする太平洋艦隊に配備する予定もある。黒海が同様の存在になればNATOに対して強いにらみを利かせられるようになる。
もう1つはロシアが、欧州の戦略的要衝であるスバルキ・ギャップ(Suwalki Gap)をコントロール下に置くシナリオだ。スバルキ・ギャップは、北に位置するリトアニアと南に位置するポーランドを隔てる国境線で、その距離は東西方向に100kmほど。その西端はロシアの飛び地であるカリーニングラード。東端は、ロシアの友好国ベラルーシの西端に当たる。ここを押さえれば、リトアニア以北のバルト3国は他のNATO諸国から分断されることになる。
そのとき、NATOはどのように行動するのか。その結束が問われる。
最後に
ウクライナ危機は欧州の問題にとどまらない。
中国は、米国をはじめとする西側諸国がいかなる対応を取るのか、まばたきさえ惜しんで凝視しているだろう。いかなる制裁を科すのか。軍事行動を起こすことはあるのか。それゆえ、ウクライナ危機にいかに対応するかは中国の次なる行動に影響を及ぼす。東アジアの安全保障に直結するのだ。
中国はもちろん、日本の行動もしっかり見ている。
そして、日本の行動を見ているのは中国だけではない。欧州諸国も同様だ。仮に台湾有事の場合、欧州諸国がいかなる行動を取るか。それは、日本がいま取る行動が左右する。日本政府は腰を据えて取り組む必要がある。そして日本国民も日本政府の行動から目を離してはならない。
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